賑わう大倉山駅前から、なぜ住宅地の高田へ?
バブルワッフル専門店「andRE(アンドリー)」に見る、店舗×キッチンカー二刀流の立地戦略
香港発祥のスイーツ「バブルワッフル」を専門に扱う「andRE(アンドリー)」。もともとはキッチンカーで都内・横浜近郊のイベントを巡っていたこのお店は、2022年6月、東急東横線・大倉山駅前のエルム通り商店街にテイクアウト専門店として初出店し、行列を作る人気店になりました。しかし、わずか1年強で横浜市営地下鉄グリーンライン・高田駅近くへ移転しています。乗降客数も年間小売販売額も上回る大倉山から、規模の小さい高田へ「あえて退く」ように見えるこの移転の裏側には、キッチンカーとの二刀流経営を成立させるための、明確な立地戦略が隠れていました。今回は、大倉山駅と高田駅、両駅の商圏データを比較しながら、店舗立地研究所が独自に分析します。
大倉山からの移転店
店舗+キッチンカー二刀流
香港発祥バブルワッフル
公開情報による独自分析
店舗立地研究所が、地域で気になるお店を独自に取り上げ、その店舗ならではの魅力や工夫を深掘りするとともに、商圏特性、店舗立地、顧客層、利用動機などの観点から分析するシリーズです。単なるグルメ紹介や店舗の格付けではなく、実在するお店を通じて、「なぜこの場所で、この業態が支持されるのか」を考えます。
公開情報をもとにした分析では、確認できた事実と店舗立地研究所による考察・提案を区別して掲載します。店舗への取材が実現した場合は、オーナーの声や現地で確認した情報を加えた「リアル店舗レポート」として、さらに詳しくご紹介します。今回は、これまでの跡地継承型(Kayagi)、業態転換移転型(PIZZERIA Sassy)、FC展開型(spoonful tokyo)、老舗継続型(ダイキチきんぎょ)、多業態化型(早鈴漁港食堂)、夢実現型の業態転換(BLONDIE BLONDE)に続き、「駅前一等地から住宅地へ移転し、店舗を“キッチンカーの母艦”として再設計する」立地戦略の分析対象として取り上げます。
大倉山時代のandREは、駅前一等地という好立地を持ちながらも、テイクアウト専門・イートインなしという不完全な業態にとどまっていました。高田への移転で得たのは、イートイン席(8席程度)と徒歩30秒の駐車スペース、そしてペット同伴OKという住宅地ならではの緩やかな空間です。駅からの人通りに依存する集客モデルから、SNS発信を起点にした目的来店+キッチンカーでの都内・横浜近郊への出張という二重の集客モデルへ切り替えたことで、駅前立地への依存度そのものを下げることに成功しています。
andRE(アンドリー)は、神奈川県横浜市港北区高田東2-4-1に店舗を構える、香港発祥のスイーツ「バブルワッフル」の専門店です。バブルワッフルは香港で「鶏蛋仔(ガイダンジャイ)」と呼ばれ、1950年代から親しまれてきた屋台スイーツで、卵・小麦粉・砂糖を使った発酵生地を丸い専用の型で焼き上げます。andREはこの生地にタピオカ粉を配合することで、外側はサクサク、中はもちもちという独自の食感を実現しており、これが看板商品としての差別化要素になっています。
店舗としての歴史をたどると、公開情報からは次のような経緯が確認できます。もともとはキッチンカーとして、渋谷桜祭りや武蔵小山のイベントスペースなど、東京・横浜近郊のイベント・マーケットに出店する業態としてスタートしました。2022年6月4日、大倉山駅前のエルム通り商店街にあった人気カレー店「世界アトミ食堂」の跡地に、テイクアウト専門店として初めて固定店舗をオープンし、開店初日から行列ができるほどの反響がありました。ダブルベリーチーズケーキやオレオチーズケーキといった見た目にも華やかなメニューが評判を呼びましたが、当時の大倉山店はキッチンカーでの出店と店舗営業を両立させる関係で、店舗としての営業日数は限定的だったことが分かっています。その後、2023年8月18日に現在の高田東の店舗へ移転オープンしました。移転後の最大の変化は、大倉山時代にはなかったイートインスペース(8席程度)が新設された点で、テイクアウト専門から、店内でくつろぎながら食べられるスタイルへと業態が変わっています。現在は「店舗+キッチンカー」の二刀流で、東京・横浜一円のイベントやマーケットにも出店する運用が続いており、店頭には大きなくまのぬいぐるみが目印として置かれ、季節ごとに衣装を変えるなど、写真映えを意識した仕掛けも施されています。
- 店舗名
- andRE(アンドリー)
- 所在地
- 神奈川県横浜市港北区高田東2-4-1
- アクセス
- 横浜市営地下鉄グリーンライン「高田駅」から徒歩7分
- 移転・現店舗開業
- 2023年8月18日(大倉山店は2022年6月4日開業・後に閉店)
- 前身の業態
- 大倉山駅前(エルム通り商店街)でのテイクアウト専門店
- 現在の業態
- 店舗(イートインあり)+キッチンカーの二刀流経営
- 営業時間
- 公式サイト掲載:14:00〜19:00(7〜8月)、定休日:月・火。食べログ掲載:金16:00〜20:00/土11:00〜20:00/日11:00〜16:00(情報源間に相違があり、要確認)
- 設備
- イートイン席あり(8席程度)/店舗から徒歩30秒に無料駐車場1台/近隣にコインパーキング複数/ペット同伴可
- 支払い方法
- カード不可/電子マネー可/QRコード決済可
- 看板メニュー
- タピオカ粉入りバブルワッフル(チョコクリーム、いちごクリーム、季節限定メニューなど)、キッチンカーではスティックタイプ(400〜600円)も提供
- 公式情報
- 公式サイト/公式Instagram「@_andre_babblewaffle」
徒歩30秒の駐車スペースと路面立地は、キッチンカーの発着・仕込み・在庫管理を行いやすい環境です。駅前の一等地よりも「稼働のしやすさ」を優先した設計だと考えられます。
くまのぬいぐるみの季節衣装や、期間限定メニューの継続投入は、駅前の通行量に代わってInstagramでの拡散を集客チャネルとして機能させる工夫だと感じます。
犬の散歩がてら立ち寄れる立地は、住宅地に近い高田だからこそ実現しやすい業態選択で、日常利用のシーンに入り込む狙いがあるように見えます。
店舗立地研究所ではこれまで、跡地を引き継いだ「Kayagi」、キッチンカーから固定店舗へ業態転換した「PIZZERIA Sassy」、人気業態を手放し夢を優先した「BLONDIE BLONDE」など、複数の業態転換パターンを分析してきました。andREはこれらとは異なり、「駅前一等地の固定店舗」から「住宅地の固定店舗+キッチンカー」へと、店舗の役割そのものを“集客の場”から“稼働の母艦”へ転換した点が独自性として際立ちます。
| 比較項目 | PIZZERIA Sassy(業態転換移転型) | BLONDIE BLONDE(夢実現型転換) | andRE(本記事・母艦立地型) |
|---|---|---|---|
| 変化の種類 | キッチンカーから固定店舗へ転換 | 人気業態を手放し、別業態へ全転換 | 駅前一等地から住宅地へ移転し、店舗+キッチンカーの二刀流へ |
| 転換の動機 | 事業拡大・視認性向上 | 店主個人の長年の夢の実現 | キッチンカー運用の効率化・業態の完成度向上 |
| 立地の優先順位 | 視認性・アクセスの良さ | 物件との縁・こだわりの実現 | 駐車・搬入のしやすさ・稼働効率 |
| 集客の軸 | 駅前の通行量 | 口コミ・ストーリー性 | SNS発信+キッチンカーでの多拠点稼働 |
大倉山駅前のエルム通り商店街は、駅からの近さと人通りの多さゆえに、店舗として維持するための賃料水準や競争環境も相応に高かったと考えられます。テイクアウト専門・限定的な営業日数では、その一等地のコストに対して十分な回収ができていなかった可能性があります。高田への移転は、駅前の通行量を多少犠牲にしてでも、キッチンカーの発着・仕込み・在庫管理を行いやすい「母艦」としての機能を優先した判断だったのではないかと考えられます。
大倉山と高田、この2つの駅の商圏データを比較すると、単純な人通りの量では大倉山が明らかに優位に立っていることが分かります。店舗立地研究所が整理した大倉山駅半径1km圏のデータでは、夜間人口52,054人、昼間人口30,870人、昼夜比0.60、年間小売販売額約405.6億円、高所得世帯比率33.4%(年収700万円以上)、1人世帯比率43.3%、持ち家比率54.9%という数値が示されています。一方、高田駅(横浜市営地下鉄グリーンライン)半径1km圏は夜間人口35,234人、昼間人口19,803人、昼夜比0.56、年間小売販売額約156.8億円、高所得世帯比率28.6%、1人世帯比率36.5%、持ち家比率59.1%という水準です。
この数字だけを見れば、あえて規模の小さいエリアへ移転する必然性は薄いように見えます。しかし世帯構成を丹念に見ていくと、両駅の性格の違いがはっきりと浮かび上がります。大倉山は1人世帯比率が43.3%と高く「高所得×持ち家×単身共存型」の商圏であるのに対し、高田は3〜4人世帯が32.0%を占め、一戸建て比率も46.9%(大倉山24.0%の約2倍)と、明確に「子育てファミリーが主役の住宅地型商圏」としての性格を持っています。年齢構成でも40〜44歳(2,766人)・45〜49歳(3,047人)という中堅・ミドル世代が最大のボリュームゾーンを形成し、昼間人口のうち生徒・学生数が2,732人(13.8%)を占めるなど、子育て・教育需要の厚みが商圏の特徴です。バブルワッフルという、親子で立ち寄りやすい写真映えスイーツにとって、この家族層の厚みは大倉山にはない強みだと考えられます。
| 比較項目 | 大倉山駅(旧店舗所在地) | 高田駅(現店舗所在地) |
|---|---|---|
| 夜間人口/昼夜比 | 52,054人/0.60 | 35,234人/0.56 |
| 年間小売販売額 | 約405.6億円 | 約156.8億円(2024年開業の「そよら横浜高田」の効果は未反映) |
| 高所得世帯比率 | 33.4%(年収700万円以上) | 28.6%(年収700万円以上)・年収1,000万円以上17.4% |
| 1人世帯比率 | 43.3% | 36.5% |
| 3〜4人世帯比率 | ―(単身・共存型が特徴) | 32.0%(子育てファミリーが主役) |
| 一戸建て比率 | 24.0% | 46.9% |
※大倉山は1km圏、高田は1km圏の公開値を使用していますが、統計項目により基準年が異なり、店舗の実際の来店客数や売上を示すものではありません。
高田東の現店舗は、グリーンライン高田駅から徒歩7分、県道沿いに立地しています。駅からの距離だけを見れば決して近いとは言えませんが、公開情報によれば店舗から徒歩30秒の場所に無料駐車場が1台分確保されており、近隣にはコインパーキングも複数あるとされています。これはテイクアウト専門で駅前一等地にあった大倉山店にはなかった条件で、車で来店する子育てファミリー層を取り込みやすい環境を整えていると考えられます。
2024年4月には、高田駅至近に「そよら横浜高田」(イオンスタイル横浜高田+専門店13店舗)がグランドオープンしており、それまで域外へ流出していた購買力の一部が地元へ回帰し始めている転換点にあります。高田への移転は、この商業環境の変化が本格化する前のタイミングと重なっており、先行して住宅地に根を張る動きだったとも解釈できます。
公式Instagramやキッチンカー出店情報を見ると、渋谷桜祭りや武蔵小山のイベントスペースなど、店舗のある高田だけでなく都内・横浜近郊のイベントにも積極的に出店していることが確認できます。固定店舗を「集客の場」ではなく「稼働の母艦」として位置づけ、キッチンカーで広域に売上機会を作るというモデルは、駅前立地への依存度を下げる合理的な設計だと考えられます。
ここからは、店舗の現在の顧客構成や実施状況を確認したものではなく、公開情報と商圏特性から考えられる今後の可能性です。すでに実施されている取組が含まれる可能性があります。
高田は3〜4人世帯が32.0%を占める子育てファミリー中心の商圏です。学校帰り・習い事帰りの親子が立ち寄れる「おやつタイム利用」を、より明確に打ち出せる余地がありそうです。
徒歩圏内に大型商業施設「そよら横浜高田」がある立地を踏まえると、買い物帰りに立ち寄れる店としての回遊利用を、より明確に発信できる余地がありそうです。
ペット同伴可という特徴は、住宅地の中でも特にファミリー犬所有者にとって魅力的な条件です。この特徴をより前面に発信することで、犬の散歩がてらの日常利用をさらに広げられる余地がありそうです。
駅前一等地から住宅地へ移転し、店舗とキッチンカーの二刀流経営を確立したという経緯は、単なる立地変更ではなく、事業として成長するための戦略的な判断として伝わるストーリーです。この背景をより多くの人に知ってもらうことで、店への理解と共感を深められそうです。
公式サイトと食べログで営業時間・営業日の情報に相違が見られる状態は、来店を検討する顧客にとって混乱を招く可能性があります。各媒体の情報を最新の状態に統一して発信することで、来店のハードルをさらに下げられそうです。
原材料費、人件費、車両維持費が上昇するなか、店舗とキッチンカーを両立させる個人店にとって、設備投資、販路開拓、情報発信の強化は有効な選択肢です。以下はandREが現在必要としている、または各制度を利用できると判断したものではありません。同様の二拠点稼働・小規模店舗運営を検討する事業者にとっての一般的な選択肢です。
キッチンカーの新規導入・改修や店舗の厨房機器増強については、日本政策金融公庫等の創業融資や自治体の設備投資支援施策の要件を確認する価値があります。
店舗とキッチンカー双方の出店情報を一元的に発信するための情報発信強化は、必要に応じて小規模事業者持続化補助金等の検討対象になり得ます。
店舗とキッチンカーを限られた人員で両立させるための省力化ツールの導入は、事業計画と公募要件に合えば、各種省力化投資補助金等の検討対象になる場合があります。
補助金は、採択や交付決定が約束されるものではなく、申請前に契約・発注・支払いをすると対象外になる制度もあります。まず事業の課題と必要な投資を整理し、その後に対象制度、公募期間、補助対象経費を確認する順番が重要です。
2026年7月時点では、小規模事業者の販路開拓等を支援する小規模事業者持続化補助金、業態転換を含む事業再構築を支援する各種補助金、ITツールの導入費用の一部を支援するデジタル化・AI導入補助金2026などがあります。募集期間、予算残額、対象経費などは変わるため、必ず申請時点の公式情報を確認する必要があります。
andREの大倉山から高田への移転は、単なる「立地のダウングレード」として捉えるべきではありません。テイクアウト専門・限定的な営業日数という制約の多い業態から、イートインと駐車場を備えた店舗へと器を変えたことで、キッチンカーとの二刀流経営という事業構造そのものを機能させやすくしています。駅前の通行量という短期的な集客力よりも、キッチンカーの運用効率とSNSを起点にした目的来店の設計を優先した結果が、高田という選択だったのではないか——これが店舗立地研究所としての見立てです。高田は子育てファミリーが主役の住宅地型商圏であり、写真映えするバブルワッフルという商品特性とも相性が良く、駅前立地に依存しない出店の在り方として、示唆に富む事例だと言えます。
店舗立地研究所では、飲食店、美容サロン、整体・リラクゼーション、パーソナルジムなど、地域で営業する店舗の魅力を、立地・商圏・顧客層の視点から紹介しています。
掲載・取材をご希望の店舗様は、公式LINEまたはお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。店舗の出店・移転・商圏分析、事業計画、資金調達、補助金活用、集客、省力化のご相談についても対応しております。
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- 横浜港北つづき区民ニュース「andRE(アンドリー)大倉山オープン」(大倉山店の開業経緯)
- 地域情報メディア「高田andRE店舗紹介」(大倉山からの移転経緯、店舗の特徴)
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