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菊名駅前に生まれた34.4㎡の小さな居場所。「素朴」を貫くブックカフェ「ぼくぼく書店」を立地から分析

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街の店舗分析|小規模個店編・独立系書店編

菊名駅前に生まれた34.4㎡の小さな居場所。
「素朴」を貫くブックカフェ「ぼくぼく書店」を立地から分析

横浜市港北区菊名、東急東横線・菊名駅から徒歩2分。2026年6月27日、店主一人の選書とセンスだけで構成された小さなブックカフェ「ぼくぼく書店」が本オープンしました。全国の自治体の約3割で書店がすでにゼロという時代に、なぜあえて実店舗の書店を選んだのか。店名の由来から店舗設計、菊名という商圏の特性まで、公開情報を丹念に読み解きながら店舗立地研究所が独自に分析します。

菊名駅から徒歩2分
2026年6月27日本オープン(5月30日プレオープン)
売場面積34.4㎡の小さな書店
新刊・古本・雑貨・コーヒー
公開情報による独自分析
「街の店舗分析」とは

店舗立地研究所が、地域で気になるお店を独自に取り上げ、その店舗ならではの魅力や工夫を深掘りするとともに、商圏特性、店舗立地、顧客層、利用動機などの観点から分析するシリーズです。単なるグルメ紹介や店舗の格付けではなく、実在するお店を通じて、「なぜこの場所で、この業態が支持されるのか」を考えます。

公開情報をもとにした分析では、確認できた事実と店舗立地研究所による考察・提案を区別して掲載します。今回は、八百屋が飲食業へ進出した「VEG」、有名店の跡地を子育て世帯向けに塗り替えた「Voyage Side mogu」に続き、「個人の店主が、自分の思想をそのまま34.4㎡の空間に落とし込んだ」という、これまでとは異なる文脈を持つ「ぼくぼく書店」を取り上げます。

先に結論:ぼくぼく書店の強さは、「品揃えの広さ」を捨てて「店主という個人」を前面に出したことだと考えられます。

全国の自治体の約3割にすでに書店が一軒もないと言われる時代に、店主・於保京平さんは34.4㎡という決して大きくない空間に、あえて実店舗の書店を選びました。品揃えの網羅性で大型書店やネット書店と競うのではなく、「店主自身が選んだものだけを置く」という一点に振り切ったことが、菊名という高所得・単身世帯比率の高い住宅密着型商圏において、狭い商圏人口でも成立する強い個性を生んでいます。店名を検討する過程で「Awe(畏怖)」という案を捨て、「飾らない、うまく見せようとしない」という精神性を最優先した経緯そのものが、この店の設計思想を物語っています。

ぼくぼく書店はどんなお店?

ぼくぼく書店は、横浜市港北区菊名6丁目2-8の1階、東急東横線・菊名駅から徒歩2分の場所にある、新刊・古本・雑貨を中心に扱う小さな書店です。店内にはコーヒーやチャイ、無添加りんごジュースなどを楽しめる数席が用意されており、テイクアウトも可能なブックカフェとしての機能も兼ね備えています。2026年5月30日にプレオープンし、同年6月27日にグラフィックデザイナー・松田行正氏を招いたトークイベント「ぼくとペンギンと仲間たち」とともに本オープンを迎えました。店主は於保京平さんで、バンド「砂の壁」でボーカル・ギターを務める活動と並行しながら、自身の企画・運営体「於保企画」の一環として書店を営んでいます。

店舗の総面積は34.4㎡と非常にコンパクトですが、内装設計は建築・空間デザインを手がけるクリエイター(mt_nh氏)が担当し、施工はTreehopper、ロゴデザインはBowl inc.のNatsuki Hosokawa氏が手がけるなど、小規模ながらプロフェッショナルなチームによって空間全体が丁寧に作り込まれています。店内ではレコードから流れる音楽(訪問客の記録によればシュガー・ベイブ『SONGS』など)が空間の一部として重視されており、選書だけでなく音響体験も含めた「その店主が好きなものの総体」を提示する場所として設計されています。仕入れにおいても、アジア圏のインディペンデント出版チームやアーティストへの直接連絡、店主の妻の紹介によるベトナムの食器を扱う夫婦との取引など、既存の取次流通に頼らない個人的なネットワークを活かした調達が行われている点も特徴的です。

「全国的に書店が減っていて、全国の自治体のうち約3割は書店がすでにないと言われています」

――店主・於保京平さんへのインタビューより(開店の経緯を語る中での発言)

店舗名
ぼくぼく書店(本と珈琲と暮らしのお店)
所在地
神奈川県横浜市港北区菊名6丁目2-8 1階(東急東横線・菊名駅から徒歩2分)
プレオープン
2026年5月30日
本オープン
2026年6月27日
定休日
月・火(Instagram等で変更の告知あり)
取扱商品
新刊書籍、古本、古物・雑貨、コーヒー・チャイ・無添加りんごジュース
店舗面積
34.4㎡
店主
於保京平さん(バンド「砂の壁」Vo&Gt、於保企画主宰)
公式情報
公式Instagram「@bokubokubooks」店主個人Instagram「@mr_tt_kyo」
店舗立地研究所が「うまい」と感じた3つのポイント
1.店名決定までのプロセスをコンテンツ化した情報発信

「Awe」から「ぼくぼく」への店名変更の経緯を、開業前の週報として丁寧にInstagramで発信していました。完成した店だけを見せるのではなく、迷いや思想の変遷そのものを公開したことが、開業前から店主の人柄への共感を生み、初日から常連的な来店者を集める土台になっています。

2.34.4㎡という規模を「弱み」にしない設計

品揃えの広さで勝負しない代わりに、内装設計・ロゴデザイン・施工にそれぞれ専門家を起用し、狭い面積の中で世界観の密度を最大化しています。小さな面積は投資額を抑えられる利点でもあり、規模の小ささを弱みではなく「編集された空間」という強みに転換しています。

3.既存の取次流通に頼らない個人的な仕入れルート

アジア圏のインディペンデント出版チームや、店主の私的なつながりを通じたベトナムの食器店など、一般的な書店取次を介さない独自の仕入れルートを構築しています。これは大型書店には並ばない一点物を扱えるという差別化に直結しています。

立地分析:菊名は「昼夜比0.76」の高所得・単身世帯型商圏

店舗立地研究所が整理した菊名駅半径1km圏のデータでは、夜間人口44,309人に対し昼間人口33,834人、昼夜比0.76という「東急東横線・JR横浜線の乗換駅を中心とした住宅主体エリア」の特性が確認できます。年間小売販売額は約386億円、飲食店106店舗という規模であり、推計商業人口は夜間人口の約0.83倍にとどまる「購買流出型」の商圏である一方、高所得世帯比率は31.9%(年収700万円以上)と全国平均の約1.5倍、単身世帯比率は49.9%と全国平均(38.0%)を大きく上回っています。生産年齢人口比率66.0%・高齢化率19.4%という比較的若い居住構造も特徴で、東急東横線を通じた渋谷・横浜方面への通勤利便性から、都市部で働く若い単身就業者やDINKS層が多く居住していることが読み取れます。

この商圏構造は、ぼくぼく書店の業態と高い整合性を持っています。単身世帯比率49.9%という数値は、「ひとりでふらっと立ち寄れる場所」というInstagram上での紹介文の表現とも符合しており、一人で過ごす時間の質を大切にする単身居住者にとって、大型書店のような賑わいよりも、静かに本と向き合える小さな空間の方が心理的に利用しやすいと考えられます。また、高所得世帯比率31.9%・年収1,000万円以上世帯14.9%という購買力は、新刊書籍や輸入雑貨といった単価の高い商品を無理なく扱える土壌になっています。飲食店数106店舗という規模は横浜駅や綱島・日吉と比較すると小さいものの、裏を返せば「駅前の激しい競争を避けながら、狭い商圏でも成立する個店」が育ちやすい環境でもあります。2025年3月から東急ストア菊名店が駅ビル改修のため約1年半休業している(2026年秋ごろ再開予定)という地域事情も、住民が「駅前で気軽に立ち寄れる場所」を求める心理的な後押しになっている可能性があります。

菊名駅1km圏の指標 公開値 ぼくぼく書店への読み替え
昼夜比 0.76(住宅主体エリア) 通勤前後の時間帯に立ち寄れる、駅から徒歩2分という近さが生活導線に組み込まれやすい。
単身世帯比率 49.9%(全国平均の約1.3倍) 「ひとりでふらっと立ち寄る」利用スタイルと相性が良く、静かな読書空間への需要が見込める。
高所得世帯比率 31.9%(年収700万円以上) 新刊書籍・輸入雑貨・コーヒーなど、単価の高い商品構成を無理なく展開できる。
生産年齢人口比率 66.0%(全国平均を上回る) 読書・カフェ文化に親しむ現役世代が地域の中心的な居住層になっている。
飲食店数 106店舗(購買流出型商圏) 駅前競争が比較的穏やかで、狭い商圏人口でも独自の個店が成立しやすい。

※駅別数値は国勢調査、経済センサス等を基礎として店舗立地研究所が整理した半径1km圏の公開値です。統計項目により基準年が異なり、店舗の実際の来店客数や売上を示すものではありません。

さらに広がりそうな3つの顧客層

ここからは、店舗の現在の顧客構成や実施状況を確認したものではなく、公開情報と商圏特性から考えられる今後の可能性です。すでに実施されている取組が含まれる可能性があります。

1.単身勤め帰りの「一冊だけ買う」需要の取り込み

単身世帯比率49.9%という商圏特性を踏まえると、平日の勤め帰りに駅から徒歩2分という近さを活かして、「今日は一冊だけ買って帰る」という軽い立ち寄り需要をさらに取り込む余地がありそうです。例えば閉店間際の時間帯に絞った小さな告知や、レジ横での一言紹介カードなどが有効かもしれません。

2.音楽ファン・レコード好きコミュニティとの接続

店主自身がバンド活動を行い、店内でレコードを流していることから、音楽好きのコミュニティとの接続を強化する余地があります。店主のバンド経験や選曲テーマに紐づけたブックリスト、あるいは小規模なレコード試聴会のような企画は、既存の音楽ファン層を新規顧客として呼び込む導線になり得ます。

3.東横線沿線の同業書店・クリエイターとのネットワーク形成

すでに他の独立系書店(banso booksなど)との取引実績があることから、東横線沿線に点在する個性的な書店・出版関係者とのゆるやかなネットワークを可視化し、沿線を横断した「書店巡り」の動機付けにつなげる余地がありそうです。

もっと認知を広げるなら考えられること
「店名の由来」を来店動機として再利用する

「Awe」から「ぼくぼく」への店名変更の経緯は、開業前の週報という形ですでに丁寧に発信されていますが、この物語は開業後も繰り返し活用できる資産です。店頭のPOPや棚に、店名の由来を短く添えるだけでも、初めて来店した人にとって「なぜこの店がこの名前なのか」を知る入口になり、単なる本屋巡りを超えた記憶に残る体験につながる可能性があります。

仕入れ先の「顔」を店内で見せる

アジア圏の独立出版チームや、店主の私的なつながりから始まったベトナムの食器店との取引など、仕入れの背景にある「顔の見える関係性」は、この店の大きな個性です。商品にひとことカードを添えて仕入れ先の紹介を行うなど、すでに一部で実施されている選書コメントの取り組みを商品全体に広げることで、ネット書店には出せない体験価値をさらに高められそうです。

店舗経営の視点:開業直後フェーズで検討余地のあるもの

原材料費、人件費、賃借コストが上昇するなか、開業直後の小規模店舗にとって、設備投資や販路開拓の強化は有効な選択肢です。以下はぼくぼく書店が現在必要としている、または各制度を利用できると判断したものではありません。同様の開業を検討する店主にとっての一般的な選択肢です。

内装・什器投資への創業融資の活用

内装設計・施工・ロゴデザインなど専門家を起用した開業投資について、日本政策金融公庫等の創業融資の要件を確認する価値があります。開業準備の段階で創業支援等事業計画の認定を受けていたことも、こうした融資活用の下地になり得ます。

販路開拓・情報発信の強化

開業前から継続してきたInstagramでの週報発信という取り組みをさらに強化するための撮影・デザイン費用等は、小規模事業者持続化補助金等の検討対象になり得ます。開業準備段階で創業支援等事業計画セミナーを受講していた経緯からも、制度活用への意識の高さがうかがえます。

在庫・レジ管理システムの導入

ネットショップ・レジ決済・在庫管理の一元化を検討していたという開業準備の記録があり、こうしたITツールの導入費用については、デジタル化・AI導入補助金等を検討できる場合があります。

補助金は「使えるものを探す」より、必要な投資から逆算する

補助金は、採択や交付決定が約束されるものではなく、申請前に契約・発注・支払いをすると対象外になる制度もあります。まず事業の課題と必要な投資を整理し、その後に対象制度、公募期間、補助対象経費を確認する順番が重要です。2026年7月時点では、小規模事業者の販路開拓等を支援する小規模事業者持続化補助金、ITツールの導入費用の一部を支援するデジタル化・AI導入補助金2026などがあります。募集期間、予算残額、対象経費などは変わるため、必ず申請時点の公式情報を確認する必要があります。

【街の店舗分析まとめ】「僕」と「僕」が静かに対話できる場所

ぼくぼく書店の面白さは、単なる「おしゃれな本屋カフェ」という表層的な魅力にとどまりません。全国の自治体の約3割にすでに書店がないと言われる時代に、店主・於保京平さんが34.4㎡という小さな空間で選んだのは、品揃えの広さで勝負することではなく、「店主自身が選んだものだけを置く」という一点への集中でした。「Awe(畏怖)」という当初の店名案を、「飾らない、うまく見せようとしない」という精神性のために手放し、「ぼくぼく」というオノマトペにたどり着いた過程そのものが、この店の設計思想を体現しています。単身世帯比率49.9%・高所得世帯比率31.9%という菊名の商圏特性は、「ひとりでふらっと立ち寄れる、静かに本と向き合える場所」という業態と静かに共鳴しており、駅前の激しい競争を避けながらも、地域に根付いた独自の存在として定着していく可能性を十分に感じさせます。

地域のお店を、商圏データと一緒に紹介します

店舗立地研究所では、飲食店、物販店、美容サロン、整体・リラクゼーション、パーソナルジムなど、地域で営業する店舗の魅力を、立地・商圏・顧客層の視点から紹介しています。

掲載・取材をご希望の店舗様は、公式LINEまたはお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。店舗の出店・移転・商圏分析、事業計画、資金調達、補助金活用、集客、省力化のご相談についても対応しております。

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出典・確認資料

執筆・分析:太田 満/編集:店舗立地研究所編集部

本記事は店舗の優劣や経営状態を格付けするものではありません。公開情報と商圏データを用いて、地域店舗の魅力と立地・店舗経営上の可能性を独自に考察したものです。売上、利益、実際の顧客構成等を推定・保証するものではありません。

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この記事を書いた人

太田 満のアバター 太田 満 店舗立地研究所及び合同会社ビジネスデザインラボラトリーズ代表

合同会社ビジネスデザインラボラトリーズ 代表社員
店舗立地研究所 代表

株式会社みずほ銀行にて16年間、数百社の中小企業オーナー・個人事業主の渉外・融資審査・経営相談業務に従事。
2021年独立後は創業支援・店舗出店支援を多数手がける現役コンサルティング会社代表。

専門は店舗事業の商圏(エリア)分析。2,000以上のエリア分析を実施し、「負けない店舗経営」「失敗しないフランチャイズ選び」を支援中。

資格:中小企業診断士・宅地建物取引士・フランチャイズオーガナイザーのほか、賃貸不動産経営管理士・管理業務主任者・不動産証券化マスター・M&Aシニアエキスパートなどの資格も保有。

第19回(2026年4月30日締切)小規模事業者持続化補助金の申請者に対して、KLA(KDDI Location Analyzer)を用いた自社商圏分析サポートを実施。

その他、税理士事務所様などと共催の補助金セミナーなども行っており、店舗立地や補助金などのセミナー依頼も、公式LINEからお気軽にお問い合わせくださいませ。

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