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日吉サンロード商店街2階「ワイン酒場サンカク」はなぜ路面でも地下でもなかったのか?ドミナント3店舗の”社内すみ分け”戦略を立地から分析

街の店舗分析|日吉ドミナント戦略編

日吉サンロード商店街2階「ワイン酒場サンカク」はなぜ路面でも地下でもなかったのか?ドミナント3店舗の”社内すみ分け”戦略を立地から分析

東急東横線・日吉駅から徒歩1分、サンロード商店街に面したビルの2階に、2025年2月「ワイン酒場サンカク」がオープンした。運営するマルエ株式会社は、日吉で「イザカヤエガチョ」「飯酒トモエ」という2つの”地下の隠れ家”系居酒屋をすでに繁盛店に育てている。ならば3店舗目も同じ勝ちパターンを踏襲しそうなものだが、実際に選ばれたのは地下ではなく2階、和食一本ではなく日本ワイン、隠れ家ではなくオープンキッチンという、あえての”逆張り”だった。今回はこの立地・業態選択を、自社内の既存2店舗との比較という視点から店舗立地研究所が分析する。

日吉駅徒歩1分
2025年2月1日開業
サンロード商店街2階
運営:マルエ株式会社(代表・江川広樹氏)
ドミナント3店舗目
「街の店舗分析」とは

店舗立地研究所が、地域で気になるお店を独自に取り上げ、その店舗ならではの魅力や工夫を深掘りするとともに、商圏特性、店舗立地、顧客層、利用動機などの観点から分析するシリーズです。単なる店舗紹介や格付けではなく、実在するお店を通じて「なぜこの場所で、この業態が支持されるのか」を考えます。

今回取り上げる「ワイン酒場サンカク」は、日吉で先行する「イザカヤエガチョ」「飯酒トモエ」に続く3店舗目として2025年2月に開業した店です。フードスタジアムがオーナー・江川広樹氏への取材を通じて出店経緯を詳しく報じており、この記事では同店を「単独の店舗」としてではなく、「日吉でドミナント展開する会社の3店舗目」として、社内の既存2店舗との立地・業態の違いに着目して分析します。

先に結論:「ワイン酒場サンカク」は、既存2店舗と客を奪い合わないための”意図的なズレ”を立地・空間・業態のすべてに仕込んだ店です。

「イザカヤエガチョ」は地下の大衆酒場、「飯酒トモエ」も地下の割烹居酒屋。どちらも「隠れ家」を軸にした和食・居酒屋業態でした。それに対しサンカクは、商店街の2階という視認性の高い立地に、あえてオープンキッチンの明るい空間を作り、和食ではなく日本ワインを主役に据えています。同じ日吉、同じ運営会社でありながら、立地の高さも、空間の開き方も、お酒の主役も、前2店舗とことごとく逆を行く設計になっている点が、この店の最大の特徴だといえるでしょう。

「ワイン酒場サンカク」はどんなお店?

ワイン酒場サンカクは、神奈川県横浜市港北区日吉2-2-16「マルシンビル第一」の2階に位置し、日吉駅西口から放射状に伸びる商店街の一つ「サンロード商店街」に面した場所にあります。駅からは徒歩1分ほど、1階にはラーメン店が入るビルの2階という立地です。運営会社は同ビルの3階も契約しており、事務所や研修所として活用しているといいます。2024年10月に物件を契約し、法人化のタイミングや内装工事、人員拡大、既存店への影響などを踏まえて入念な準備期間を経たのち、2025年2月1日にオープンしました。

店内は、カウンター10席とテーブル席を合わせて計25席。内装は全面改装されており、カウンターをセットバックさせ、それまでフロアを仕切っていたトイレを端に移動させることで、どの席からもキッチンが見渡せるオープンな造りになっています。内装デザインを手がけたのは「飯酒トモエ」と同じくTILTの椿正明氏で、壁には日本地図のイラストが描かれ、コンセプトである「和」を表現しています。ジャンルは食べログ上では「ダイニングバー、イタリアン」に分類され、公式Instagramでは「日本ワインと和のエッセンスを取り入れた料理」「裏テーマは”三角・尖のある店”で枠にとらわれずチャレンジするお店」と紹介されています。看板メニューには、生ハムとニョッコフリット、茨城県産ブランド豚「弓豚」のソテーやひとくちポルケッタ、牛ハツのレアカツ、猪のパテ・ド・カンパーニュ(八丁味噌使用)などが並び、和食一本だった前2店舗に比べ、イタリアンやフレンチの要素を取り入れた”ノンジャンル”な料理構成になっている点が特徴です。

店舗名
ワイン酒場 Sunkaku(サンカク)
所在地
神奈川県横浜市港北区日吉2-2-16 マルシンビル第一 2F
アクセス
東急東横線「日吉駅」から徒歩1分(サンロード商店街内)
開業日
2025年2月1日(物件契約は2024年10月)
業態
日本ワインと和のエッセンスを取り入れたノンジャンル料理の酒場
営業時間
17:00〜24:00(フードスタジアム取材時)※食べログでは16:30〜23:30、公式Instagramでは17:00〜25:00と表記に幅あり(詳細は後述)
定休日
不定休
坪数・席数
15坪25席(カウンター10席、テーブル3卓)
予算
フードスタジアム取材時6,000〜7,000円。食べログ公式表記は5,000〜5,999円、口コミ集計では6,000〜7,999円(詳細は後述)
体制
代表:江川広樹氏(イザカヤエガチョ・飯酒トモエと同一運営)
運営会社
マルエ株式会社(日吉エリアでドミナント展開、9店舗体制を目標に掲げる)
公式Instagram
@sunkaku_hiyoshi
なぜ「路面1階」でも「地下」でもなく、あえて「商店街2階」だったのか

飲食店の出店において、路面1階や好視認性の区画が好まれるのは一般的なセオリーだ。しかしサンカクが入居したのは、1階にラーメン店が入るビルの「2階」という、決して視認性が高いとは言えない区画である。この選択の背景には、既存2店舗との差別化という明確な意図があったと考えられる。フードスタジアムの取材で江川氏は、出店の経緯についてこう語っている。

「今後もさまざまな業態にチャレンジしていきたいと考えるなかで、その足掛かりとして3店舗目をオープンしようと。日吉という街が好きなことや、人員や物件の条件をふまえ、ドミナント展開するために近隣で物件を探しました」

――江川広樹氏(フードスタジアムより)

見つかったのは、以前はハンバーガー店だった15坪の物件だった。2024年10月に契約したものの、法人化のタイミングと重なったことや、内装工事、人員拡大、既存店への影響などを踏まえ、入念な準備期間を経て2025年2月1日のオープンに至っている。江川氏は「『イザカヤエガチョ』をオープンしてから5年ほど経過し、今回は3店舗目ということで良い意味で期待値が上がっているようにも感じた。それに応えるため、オープンを焦らずしっかり準備期間を設けました」とも語っており、勢いに任せた出店ではなく、既存店の実績を踏まえた慎重な判断があったことがうかがえる。

空間設計における最大の特徴は、オープンキッチンの採用だ。地下の隠れ家という前2店舗の空間コンセプトとは対照的に、江川氏はこの店について「全体を見渡せない店内は、酒場には向いていない」と明言している。

「全体を見渡せない店内は、酒場には向いていない。オープンキッチンであれば接客しやすくお客さんとの距離感を縮めやすいし、活気ある空間を生み出せると思ったんです」

――江川広樹氏(フードスタジアムより)

この言葉は、裏を返せば「イザカヤエガチョ」「飯酒トモエ」という前2店舗が意図的に採用してきた”見渡せない隠れ家”というコンセプトとは異なる哲学を、3店舗目にはあえて持ち込んだことを意味している。同じ運営会社でありながら、店ごとに異なる空間哲学を使い分けている点は、単なる思いつきではなく、日吉という一つの商圏の中で複数の顧客層・利用シーンを漏れなく拾おうとする設計思想の表れだと読み取れる。

ドミナント3店舗の社内ポジショニング比較

マルエ株式会社は、日吉エリアで「イザカヤエガチョ」(2020年6月開業)、「飯酒トモエ」(2024年1月開業)、「ワイン酒場サンカク」(2025年2月開業)という3店舗を展開しており、同社の採用サイトによれば現在は「食堂KAJITSU」を含め4店舗体制に拡大している。3店舗それぞれの立地・業態・空間設計を比較すると、単純な多店舗展開ではなく、意図的にポジションをずらしたすみ分け戦略が見えてくる。

比較項目 イザカヤエガチョ(1号店) 飯酒トモエ(2号店) ワイン酒場サンカク(3号店)
開業 2020年6月 2024年1月5日 2025年2月1日
立地の高さ 地下(隠れ家) 地下1階(隠れ家) 地上2階(商店街・視認性重視)
業態の軸 大衆居酒屋 割烹×居酒屋(和食) 日本ワイン×ノンジャンル料理
空間設計 アットホームな大衆酒場 大理石カウンターの隠れ家 オープンキッチンで見渡せる活気ある空間
想定される客層 幅広い年齢層の地域住民 特別な日や会食利用の大人 女性・カップル・宴会利用まで幅広く
規模 12坪 15坪23席 15坪25席
3店舗の立地の「高さ」が、そのまま空間コンセプトの違いを表している。
地下×隠れ家という型を2店舗で確立したあとに、あえて地上×オープンという真逆の型を3店舗目に持ち込んだ点は、単に物件が見つかったからという以上に、既存客が「今日はどの店に行こうか」と選ぶ際の選択肢を広げる狙いがあったと考えられます。同じ会社が運営する店同士で客を奪い合う「カニバリゼーション」を避けるには、立地の高さ・空間の開き方・主役となる酒の種類のすべてを変えるという、かなり踏み込んだ差別化が必要だったのでしょう。

食べログの「よくある質問」欄に記載されたサンカクの口コミには「創作系のおつまみと日本のワインが楽しめるお店」「1人でもふらっと入りやすい」「常連の方で賑わっていた」といった記述があり、利用シーンとしては「家族・子供と」「デート」「大人数の宴会」が挙げられている。これは、地下の隠れ家である前2店舗が主に「大人の会食・特別な日」を想定していたのに対し、サンカクがより日常的でカジュアルな利用、特に女性やカップル層を意識したポジショニングを取っていることを示唆している。

日吉商圏データとの整合性:チェーン店が多い駅前で「日本ワイン」を選ぶ意味

店舗立地研究所が整理した日吉駅半径1,000m圏のデータによれば、年収700万円以上の高所得世帯比率は約32.5%、1,000万円以上も約15.0%に達しており、東急東横線の1日平均乗降人員は133,051人と近隣駅を上回る。2026年6月には駅前の商業施設が「東急百貨店 日吉店」へと名称変更されるなど、駅前商業の存在感も増している。こうした環境は、単価の高いワイン主体の業態が成立しうる購買力の裏付けになっている。

一方で、日吉駅前にはチェーン系の居酒屋やダイニングバーも一定数存在し、飲食店事業所数は142事業所にのぼる。江川氏が飯酒トモエの取材で語っていた「駅前にはチェーン店が多く、感度の高い和食の居酒屋があまりない」という認識は、サンカクの業態選択にも通じるものがある。日本ワインを軸にした専門性の高い酒場は、駅前のチェーン店とは明確に一線を画す差別化要因になり得るからだ。さらに、女性やカップルでも入りやすいオープンな空間設計は、大学キャンパスを抱え学生・単身層も厚い商圏の中で、これまで前2店舗が取り込みきれていなかった客層への接点を新たに作る狙いがあったとも考えられる。

日吉駅1,000m圏の指標 公開値 「ワイン酒場サンカク」への読み替え
高所得世帯比率 年収700万円以上 約32.5%(1,000万円以上 約15.0%) 単価6,000円前後のワイン酒場が成立する購買力の裏付けとなる。
飲食店事業所数 142事業所 チェーン系居酒屋・ダイニングバーが多い中、日本ワイン専門という軸が差別化要因になる。
駅前商業の変化 2026年6月「東急百貨店 日吉店」へ名称変更 駅前商業の存在感が増すなか、商店街2階という立地でも視認性を確保する工夫が重要になる。
昼夜比・学生層 昼夜比0.93、生徒・学生数18,032人 学生街のイメージが強い日吉だが、女性・カップル向けの明るい酒場は新たな客層開拓の余地がある。

※日吉駅の商圏データは、国勢調査・経済センサス等を基礎として店舗立地研究所が整理した半径1,000m圏の公開値です。統計項目により基準年が異なり、店舗の実際の来店客数や売上を示すものではありません。

店舗立地研究所が「気になる」と感じた3つのポイント
1.「見渡せない隠れ家」から「見渡せる酒場」への意図的な転換

前2店舗の”隠れ家”というコンセプトをあえて崩し、オープンキッチンによる開放的な空間を選んだ点は、既存店の型に安住しない姿勢の表れといえます。

2.同じ内装デザイナーが手がける、異なる世界観

「飯酒トモエ」と同じくTILTの椿正明氏が内装を担当しながら、大理石の隠れ家とはまったく異なるスタイリッシュな空間に仕上げている点は、デザイナーとオーナーの意図の擦り合わせの深さを感じさせます。

3.法人化のタイミングに合わせた慎重な出店

物件契約から開業まで約4カ月の準備期間を設け、法人化や人員拡大、既存店への影響を踏まえて開業時期を調整した点は、勢い任せではない経営判断の堅実さを示しています。

今後の展開について考えられること

マルエ株式会社の採用サイトでは、代表の江川氏が「今はまだ4店舗ですが、どのお店もおかげさまで人気店に育ってきています。まずは、この勢いのまま9店舗体制を目指して店舗を増やしていくのが直近の目標です」と語っている。この目標を踏まえると、サンカクで確立された「地上×オープン×ノンジャンル」という新しい型は、今後の4店舗目以降の出店における一つの選択肢になっていく可能性がある。地下の隠れ家という型に加えて、地上の開放的な酒場という型を自社のポートフォリオに持つことは、今後の物件探しにおいて選択肢の幅を広げることにもつながるはずだ。また、料理面でもイタリアン・フレンチ的な要素を取り入れたノンジャンル路線を確立できれば、和食一本だった前2店舗とは異なる客層・利用シーンをさらに開拓できる可能性がある。

【街の店舗分析まとめ】

「ワイン酒場サンカク」の面白さは、単体の店舗としての魅力以上に、「日吉で2店舗の繁盛店を育てた会社が、あえて3店舗目で真逆の型に挑戦した」という、社内ポジショニングの妙にある。地下から地上へ、隠れ家からオープンキッチンへ、和食から日本ワイン×ノンジャンルへ。立地の高さも、空間の開き方も、主役となる酒の種類も、前2店舗とことごとく変えるという踏み込んだ差別化が、日吉という一つの商圏の中で異なる客層・利用シーンを取りこぼさないための設計だったと考えられる。同じ運営会社、同じ内装デザイナーでありながら、店ごとにまったく異なる世界観を作り分けている点は、ドミナント戦略における多店舗展開の一つのお手本といえるかもしれない。

この記事は公開情報を基にした分析であり、江川さんご本人から直接お話を伺えたわけではありません。3店舗の立地・空間設計をこれほど明確に使い分けた狙いや、9店舗体制に向けた今後の出店戦略について、直接お伺いできる機会があれば、より深い記事としてお届けできればと思っております。

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店舗立地研究所では、飲食店、美容サロン、整体・リラクゼーション、パーソナルジム、専門小売店など、地域で営業する店舗の魅力を、立地・商圏・顧客層の視点から紹介しています。

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出典・確認資料

執筆・分析:太田 満/編集:店舗立地研究所編集部

本記事は店舗の優劣や経営状態を格付けするものではありません。公開情報を用いて、地域店舗の魅力と立地・店舗経営上の可能性を独自に考察したものです。売上、利益、実際の顧客構成等を推定・保証するものではありません。営業時間・客単価など、情報源によって数値に差が見られた項目については、その旨を本文中に明記しています。営業時間・メニュー内容・価格は変更されることがあるため、ご来店前に必ず公式Instagramや電話での最新情報をご確認ください。

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この記事を書いた人

太田 満のアバター 太田 満 店舗立地研究所及び合同会社ビジネスデザインラボラトリーズ代表

合同会社ビジネスデザインラボラトリーズ 代表社員
店舗立地研究所 代表

株式会社みずほ銀行にて16年間、数百社の中小企業オーナー・個人事業主の渉外・融資審査・経営相談業務に従事。
2021年独立後は創業支援・店舗出店支援を多数手がける現役コンサルティング会社代表。

専門は店舗事業の商圏(エリア)分析。2,000以上のエリア分析を実施し、「負けない店舗経営」「失敗しないフランチャイズ選び」を支援中。

資格:中小企業診断士・宅地建物取引士・フランチャイズオーガナイザーのほか、賃貸不動産経営管理士・管理業務主任者・不動産証券化マスター・M&Aシニアエキスパートなどの資格も保有。

第19回(2026年4月30日締切)小規模事業者持続化補助金の申請者に対して、KLA(KDDI Location Analyzer)を用いた自社商圏分析サポートを実施。

その他、税理士事務所様などと共催の補助金セミナーなども行っており、店舗立地や補助金などのセミナー依頼も、公式LINEからお気軽にお問い合わせくださいませ。

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