開業10年、綱島「NINE」はなぜ今も愛される?
老舗イタリアンの継続戦略を立地から分析
東急東横線・綱島駅から徒歩2分。ワインとチーズを楽しむ本格イタリアン「NINE 綱島店」は、2016年7月15日の開業から数えて、2026年7月に開業10周年を迎えました。派手な宣伝をせず、常連客との関係を積み重ねることで10年間営業を続けてきたこの店には、新規開業店とは異なる「続け方」の戦略があります。公開情報と綱島駅の商圏データから、店舗立地研究所が独自に読み解きます。
ワイン&チーズ専門イタリアン
2016年開業・2026年で10周年
17席・個室4名可
公開情報による独自分析
店舗立地研究所が、地域で気になるお店を独自に取り上げ、その店舗ならではの魅力や工夫を深掘りするとともに、商圏特性、店舗立地、顧客層、利用動機などの観点から分析するシリーズです。単なるグルメ紹介や店舗の格付けではなく、実在するお店を通じて、「なぜこの場所で、この業態が支持されるのか」を考えます。
公開情報をもとにした分析では、確認できた事実と店舗立地研究所による考察・提案を区別して掲載します。店舗への取材が実現した場合は、オーナーの声や現地で確認した情報を加えた「リアル店舗レポート」として、さらに詳しくご紹介します。なお、当研究所ではこれまで「大倉山駅・2026年新規開業」を中心に取り上げてきましたが、本記事はやや趣を変え、開業から10年という節目を迎えた綱島駅の老舗を、「続け方」という別の視点から分析対象としました。
新規開業店の多くは、開業直後にどう客を集めるかという立地戦略・業態設計が焦点になります。しかしNINEのように10年続く個人店では、開業時の戦略だけでなく、「専門性を絞り続ける」「顧客との関係を積み重ねる」という運営フェーズの巧みさが継続の核になります。ワインとチーズという専門軸を10年間ぶらさずに貫いてきた背景を踏まえると、この老舗には単独業態を極める店ならではの合理性が見えてきます。
NINE 綱島店は、神奈川県横浜市港北区綱島西1-2-9、東急東横線・綱島駅北口から徒歩2分(東急新横浜線・新綱島駅からも徒歩5分ほど)にある「ゴールデンパーク第6吉田ビル」1階のイタリアンレストランです。オーナーの西方亮さんは、名古屋・六本木のホテルレストランでの勤務を経て「自分の店を持ちたい」という思いから独立し、東横線沿線の中でも「温かい雰囲気」に惹かれて綱島の地に店を構えたといいます。2016年7月15日の開業から数えて、2026年で丸10年という節目を迎えました。
業態としての最大の特徴は、「ワインとチーズを楽しむ本格イタリアン」というコンセプトの一貫性です。店内には専用のチーズ冷蔵庫を備え、常時20種類ほどのナチュラルチーズを用意し、なかでもラクレットチーズを目の前でとろかして提供するスタイルが名物になっています。ソムリエ資格を持つスタッフが在籍し、ルーマニアやアルゼンチン、フランス・ブルゴーニュなど世界各地から選んだワインを、詳しくない人にも好みを聞きながら提案してくれる体制を取っています。席数は17席(カウンター4席、テーブル13席)とさほど大きくはなく、4人までの個室も備え、家族の記念日利用から一人ランチまで幅広いシーンに対応しています。
- 店舗名
- NINE 綱島店(NINE Wine&Cheese Dining Tsunashima)
- 所在地
- 横浜市港北区綱島西1-2-9 ゴールデンパーク第6吉田ビル1F
- アクセス
- 東急東横線・綱島駅北口から徒歩2分、東急新横浜線・新綱島駅から徒歩5分
- 開業
- 2016年7月15日オープン(2026年7月15日に開業10周年)
- 業態
- ワイン&チーズ専門イタリアンダイニング(チーズ料理・パスタ)
- 営業日時
- ランチ 11:30〜15:00(土日祝〜16:00)、ディナー 17:30〜22:00(日〜21:30)、火・水定休(公開情報時点。詳細は要確認)
- 座席・設備
- 17席(カウンター4席、テーブル13席)、個室4名可、子ども連れ可(ベビーチェア有)
- 公式情報
- 公式Instagram(NINE綱島店) / 食べログ「NINE Wine&Cheese Dining Tsunashima」
イタリアン全般ではなく、チーズとワインという専門性に絞り込んだメニュー構成を10年間維持しています。専門性を明確にすることで、価格競争ではなく体験の独自性で差別化を図っています。
オーナー自ら「顔を覚えて声をかけるのが楽しみ」と語り、常連客の誕生日にサプライズを用意するなど、広告費をかけずに指名来店を生み出す関係性構築を続けています。
新綱島駅の開業や再開発で街の姿が変わる中でも、「大きく変わらなくてもいい」という考えのもと、既存客との関係を土台にしながら変化を排除せず受け入れています。
店舗立地研究所では以前、大倉山の新規開業店「Kayagi(かやぎ)」「cafe works(カフェワークス)」「STAY FRESH Coffee&Foods」についても分析記事を掲載しました。これらはいずれも開業初期の立地戦略・継承戦略・複合戦略に焦点を当てたものでしたが、NINEは開業からすでに10年が経過しており、「立ち上げ方」ではなく「続け方」が分析の軸になります。
Kayagiは前身店シェフによる独立開業という「人を継ぐ」跡地承継、cafe worksは建築事務所が自ら運営する「場所の役割を継ぐ」跡地承継、STAY FRESHは複数業態を1つの建物に並べる水平複合戦略という、それぞれ開業時点での戦略に工夫がありました。これに対しNINEは、開業時の戦略よりも「専門性を絞り込んだまま、10年間どう関係性を積み重ねてきたか」という運営フェーズの巧みさが際立ちます。新規開業を検討する事業者にとっても、開業初期の立地選定や業態設計だけでなく、「5年後・10年後にどう店を維持するか」という視点は同じく重要であり、NINEのケースはその点で示唆に富む事例です。
| 比較項目 | Kayagi(人を継ぐ) | cafe works(場所を継ぐ) | STAY FRESH(複数業態を並べる) | NINE(関係性を積み重ねる) |
|---|---|---|---|---|
| 開業年 | 2026年 | 2026年 | 2024年 | 2016年 |
| 戦略の焦点 | 開業初期の跡地承継 | 開業初期の跡地承継 | 開業初期の複合設計 | 10年間の運営継続 |
| 採算の考え方 | 単独業態の売上で採算を取る | 飲食単体でなく事務所全体で評価 | 3業態の賃料・集客コストを分散 | 専門性で単価と満足度を確保 |
| 顧客の広がり方 | 前身店の常連からの引き継ぎ | 建築ファンや地域住民との接点 | 3業態それぞれの客が建物内を回遊 | 常連客との個人的な関係の蓄積 |
NINEは、業態を広げる道ではなく、チーズとワインという専門性を守り続け、常連客との関係を土台に経営を安定させる道を選んでいます。新規開業の勢いだけでは乗り越えられない「10年目の壁」を、専門性の一貫性と接客への投資で乗り越えている点に、この店の独自性があります。
店舗立地研究所が整理した綱島駅半径1km圏のデータでは、夜間人口49,282人、昼間人口30,077人、昼夜比0.61という数値が示されています。これは日中の通勤・通学による人口流出が大きく、夕方以降や休日にこそ地元消費が活発化する、典型的な住宅地型商圏であることを表しています。ディナー中心・週末強めの営業スタイルを取るNINEのような業態には適した立地といえます。総世帯数は25,872世帯で、単身世帯が45.2%と最大多数を占めますが、35〜49歳の働き盛りファミリー層が人口構成の中で際立って厚く、生産年齢人口比率は67.9%と全国・県平均を大きく上回る一方、高齢化率は15.6%と全国平均の半分程度に留まっています。
特に注目すべきは、高所得世帯比率(年収700万円以上)が31.4%と、全国平均(約19.8%)の1.6倍、神奈川県平均(26.2%)も上回っている点です。年収1,000万円以上の世帯も14.8%存在し、綱島SSTへの大企業勤務・専門職層の集積が背景にあると考えられます。この商圏構造を踏まえると、NINEが掲げる「ちょっとした贅沢を、気取らずに楽しめるイタリアン」というポジションは、「記念日利用」「ファミリーでの外食」「地元での自分へのご褒美消費」の需要が根強いこのエリアの特性と高い精度で一致しています。また商圏内には飲食店が209店舗ほど存在するとされていますが、その中で「チーズ専用冷蔵庫を備え、常時20種類のナチュラルチーズを扱う」という専門性を打ち出している店は稀有であり、価格競争に巻き込まれにくい独自の立ち位置を確保できていると分析できます。
| 綱島駅1km圏の指標 | 公開値 | NINEへの読み替え |
|---|---|---|
| 昼夜比 | 0.61(夜間人口49,282人) | 夕方以降・休日に地元消費が集中する構造で、ディナー中心の営業と相性が良い立地です。 |
| 高所得世帯比率 | 31.4%(年収700万円以上) | 記念日利用やちょっとした贅沢消費を支える購買力があります。 |
| 生産年齢人口比率 | 67.9%(高齢化率15.6%) | 働き盛りファミリー層の厚みが、外食・記念日需要を後押ししています。 |
| 飲食店数 | 209店舗 | チーズ&ワイン専門という軸を持つ店は限られ、専門特化の優位性が働きます。 |
| 来街倍率 | 約1.16倍 | 広域集客型ではなく、居住者中心・地域密着型の商圏に位置づけられます。 |
※駅別数値は国勢調査・経済センサス等を基礎として店舗立地研究所が整理した半径1km圏の公開値です。統計項目により基準年が異なり、店舗の実際の来店客数や売上を示すものではありません。
個人店の多くは、集客のためにメニューの幅を広げようとします。しかしNINEは、開業から10年間「チーズとワイン」という軸をぶらさずに貫いています。ナチュラルチーズを常時20種類用意し、ラクレットを目の前でとろかして提供するという専門的な体験を軸にすることで、メニュー数での競争を避け、「ここでしか味わえない体験」で差別化を図ってきました。
オーナーの西方さんは「派手な宣伝はしないけれど、料理と雰囲気で『また来たい』と思ってもらえること。顔を覚えて『いつもありがとうございます』と声をかけるのは、僕の楽しみでもあります」と語っています。常連客として紹介されている地元の方は「妻の誕生日に来たとき、サプライズでデザートプレートを出してくれて感激しました」と語っており、10年間で顧客との関係性を丹念に積み上げてきたことがうかがえます。
新綱島駅の開業や再開発によって街の姿が変わる中でも、西方さんは「昔はローカル色が強い街という印象でしたが、再開発が進み、新しい人たちも増えてきました。それでも、商店街の人たちやご近所さんの温かさは変わりません」と述べています。既存客との関係を土台にしながら、変化そのものは排除せず受け入れるという姿勢が、10年間の継続を支えていると考えられます。
ここからは、店舗の現在の顧客構成や実施状況を確認したものではなく、公開情報と商圏特性から考えられる今後の可能性です。すでに実施されている取組が含まれる可能性があります。
新綱島駅直結の「新綱島スクエア」の開業により、周辺の来街者・利用者が増えているとみられます。徒歩5分圏内という立地を活かし、新綱島スクエア利用者への案内・発信を強化する余地がありそうです。
10年間通い続けている常連客のエピソードは、単なる老舗紹介以上の人間的な魅力を持つコンテンツになります。10周年を機に、こうした常連客との関係性をより積極的に発信する余地がありそうです。
生産年齢人口比率が高く、働き盛りのファミリー層が厚い綱島の商圏特性を踏まえると、個室を活用した記念日・お祝い利用の案内をより前面に出すことで、新規の記念日需要を取り込める余地がありそうです。
10年間営業を続けているという事実は、初めての来店者にとって「安心して選べる店」という強力な訴求ポイントになります。外観や看板、SNSで「開業10周年」であることをより明確に伝えることで、新規客にも安心感を提供できそうです。
10年間チーズとワインという軸をぶらさずに続けてきたという経緯は、単なる老舗以上の職人的な魅力を持つストーリーです。この経緯をより積極的に発信することで、「なんとなく続いている店」ではなく「信念を持って続けている店」として認知される可能性が広がりそうです。
原材料費、人件費、賃借コストが上昇するなか、10年以上続く個人店の運営においても、事業計画の見直しや省力化への投資、将来的な事業承継の検討は有効な選択肢です。以下はNINEが現在必要としている、または各制度を利用できると判断したものではありません。同様の老舗店舗が今後の展開を検討する際の一般的な選択肢です。
10年以上続く個人店では、将来的な事業承継や第二創業も検討テーマになります。公募要件と自社の状況を確認する価値があります。
10周年を機にしたSNS運用の強化や予約システムの導入などは、事業計画と公募要件に合えば、小規模事業者持続化補助金等の検討対象になる場合があります。
チーズ専用冷蔵庫やラクレットマシンなど専門設備の更新・拡充は、必要に応じて省力化・設備投資系の補助金の検討対象になり得ます。
補助金は、採択や交付決定が約束されるものではなく、申請前に契約・発注・支払いをすると対象外になる制度もあります。まず事業の課題と必要な投資を整理し、その後に対象制度、公募期間、補助対象経費を確認する順番が重要です。
2026年7月時点では、小規模事業者の販路開拓等を支援する小規模事業者持続化補助金、事業承継・引継ぎ支援関連の補助金、ITツールの導入費用の一部を支援するデジタル化・AI導入補助金2026などがあります。募集期間、予算残額、対象経費などは変わるため、必ず申請時点の公式情報を確認する必要があります。
NINE 綱島店の面白さは、チーズやワインといった商品そのものだけではありません。開業から10年間、専門性を絞り込んだメニュー構成と、常連客との関係性の積み重ねという、新規開業店とは異なる継続戦略にこの店の独自性が詰まっています。開業初期の跡地承継や複合設計を工夫した「Kayagi」「cafe works」「STAY FRESH」とは異なり、NINEは「開業後、どう続けるか」という運営フェーズの巧みさで、10年という節目にたどり着いています。
綱島は、高所得世帯・働き盛りファミリー層が厚く集積する、地域密着型の住宅地商圏です。地元での記念日利用やちょっとした贅沢消費を求める住民ニーズと、NINEの「専門性×関係性」という設計は、非常に相性が良いと考えられます。
正直なところ、私自身はまだこのお店を訪れたことがありません。ぜひ近いうちに綱島駅から徒歩2分のこの店を訪れ、10年間磨かれてきたチーズとワインの世界を実際に味わってみたいと思っています。そして、もし取材の機会をいただけましたら、10年間の歩みや、専門性を守り続けてきた背景、そして今後の展望について直接お伺いし、改めて記事としてお届けできればと思っております。
店舗立地研究所では、飲食店、美容サロン、整体・リラクゼーション、パーソナルジムなど、地域で営業する店舗の魅力を、立地・商圏・顧客層の視点から紹介しています。
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