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大倉山の路地裏、7.0坪の小さな一軒。米麹だけで発酵させる食パン専門店「Toasty Shop」を立地から分析

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街の店舗分析|小規模個店編・ベーカリー編

大倉山の路地裏、7.0坪の小さな一軒。
米麹だけで発酵させる食パン専門店「Toasty Shop」を立地から分析

神奈川県横浜市港北区大倉山、東急東横線・大倉山駅から徒歩1〜3分。2014年1月、夫婦二人で始めた小さな食パン専門店「Toasty Shop」は、開業から12年以上を経てなお、住宅街に根を張り続けています。市販の天然酵母を使わず、米麹から自家培養するという地道な発酵づくりと、開業までの4年間の準備プロセスを、大倉山の商圏データとともに店舗立地研究所が独自に分析します。

大倉山駅から徒歩1〜3分
2014年1月開業
店舗面積7.0坪の小さな一軒
米麹自家培養天然酵母の食パン専門店
公開情報による独自分析
「街の店舗分析」とは

店舗立地研究所が、地域で気になるお店を独自に取り上げ、その店舗ならではの魅力や工夫を深掘りするとともに、商圏特性、店舗立地、顧客層、利用動機などの観点から分析するシリーズです。単なるグルメ紹介や店舗の格付けではなく、実在するお店を通じて、「なぜこの場所で、この業態が支持されるのか」を考えます。

今回取り上げる「Toasty Shop」は、これまで紹介してきた新規開業・移転直後の店舗とは異なり、2014年の開業から12年以上にわたり同じ場所で営業を続けてきた「持続する個人店」です。開業直後の勢いではなく、長く続く小さなビジネスがどのような構造で成立しているのかという視点から分析します。

先に結論:Toasty Shopの強さは、「品数を絞り、発酵にすべてを賭けた」ことだと考えられます。

7.0坪、夫婦二人という体制は、決して大きなビジネスではありません。しかし市販の天然酵母を使わず、米麹から自家培養するという手間のかかる工程にこだわり抜いたことで、「日本人が食べてホッとする、ご飯のような食パン」という独自の価値をつくり上げました。開業までに4年の準備期間をかけ、横浜市の助成金制度も活用しながら着実に基盤を固めたプロセスは、規模を追わずに個人店で長く続けるための一つの型を示しています。

Toasty Shopはどんなお店?

Toasty Shopは、横浜市港北区大倉山3丁目7-14、東急東横線・大倉山駅から徒歩1〜3分の住宅街の一角にある、食パンを主力とするベーカリーです。店主は小池崇さんで、パン職人として20数年の経験を積んだ後、2014年1月に独立して同店を開業しました。店舗面積はわずか7.0坪(23.14㎡)で、イートインスペースはなく、店内は1〜2組が入るといっぱいになってしまうほどのコンパクトな造りです。夫婦二人で営む小さな店舗として、大々的な広告・宣伝を行わずに、口コミと地域内での評判を軸に顧客を積み重ねてきました。

看板商品は店名を冠した「トースティー食パン」で、小麦粉100%のものが1斤360円、全粒粉20%配合とライ麦20%配合のものがそれぞれ1斤380円という3種類を基本に、小麦から起こすサワー種によるバゲットやドイツパンも扱っています。最大の特徴は、市販のパン用天然酵母や酵母菌製剤を一切使わず、米麹(こうじ)から自家培養した天然酵母だけでパンを仕込んでいる点です。小池さんが元種に米麹を選んだ理由は、酸味を抑えやすいことと、タンパク質を旨味成分のアミノ酸に分解する酵素を多く含み、深みのある味わいに仕上がることの二つだといいます。日本酒の醸造方法を参考にしたという発酵への向き合い方は、パン職人としての技術だけでなく、独自の研究開発姿勢を物語っています。

「材料は極力国産の安全なもの。酵母は自家製。油脂を使わない」――独立にあたり自らに課したルール。「なぜそうするのか、一手一手意味のあるものにしないと勝てない。将棋と似ているんです」

――店主・小池崇さんへのインタビューより(神奈川新聞「思い立ったらパン日和」2015年11月22日掲載)

店舗名
Toasty Shop(トースティーショップ)
所在地
神奈川県横浜市港北区大倉山3-7-14-A(東急東横線・大倉山駅から徒歩1〜3分)
開業
2014年1月
営業時間
10:00〜18:00(売り切れ次第終了の場合あり)
定休日
日曜・月曜(開業当初〜2015年頃は日曜のみだった可能性あり)
取扱商品
食パン(3種)、バゲット、ドイツパン、あんぱん・クリームパン等の菓子パン、焼き菓子
店舗面積
7.0坪(23.14㎡)
店主
小池崇さん(パン職人経験20数年、夫婦二人での経営)
電話番号
045-716-8686
店舗立地研究所が「うまい」と感じた3つのポイント
1.「これだけしかできない」を強みに変える発酵設計

米麹からの自家培養天然酵母は、温度・湿度の管理が難しく、油断すればすぐに酸っぱくなってしまうという手間のかかる工程です。あえて手間のかかる方法を選び抜いたことで、市販酵母を使う大手チェーンには出せない「ご飯のような食パン」という独自の価値を確立しています。

2.4年の準備期間をかけた着実な物件選定

開業決意から実際の開業まで4年、物件探しだけで1年以上をかけ、「駅から近く、家賃が高すぎず、商店街に加入できる物件」という明確な条件を貫きました。焦って妥協せず、希望に合う立地を待ち続けた姿勢が、12年以上続く経営基盤につながっています。

3.公的助成金を実際に使いこなした資金計画

開業資金1700万円のうち、自己資金700万円・日本政策金融公庫からの借入1000万円に加え、横浜市の助成金制度も活用しています。一度目の審査に落ちても翌年再挑戦するなど、公的支援制度への感度と粘り強さが、無理のない資金計画を支えました。

立地分析:大倉山は「昼夜比0.60」の純粋居住型ベッドタウン

店舗立地研究所が整理した大倉山駅半径1km圏のデータでは、夜間人口52,054人に対し昼間人口は30,870人、昼夜比0.60という「大型商業施設やオフィスビル群をほとんど持たない、典型的な住宅地・ベッドタウン型商圏」の特性が確認できます。年間小売販売額は約405.6億円、飲食店113店舗という規模であり、来街倍率(商業人口÷夜間人口)は約0.74倍と1倍を下回っており、住民の購買力の多くが横浜・綱島・日吉・菊名など近隣の商業集積地へ流出している実態がうかがえます。

この商圏構造は、Toasty Shopの業態と高い整合性を持っています。持ち家比率は54.9〜55.1%と過半数を超え、一戸建て比率も24.0%に達しており、横浜駅周辺と比較しても定住志向の強い地域であることが分かります。加えて年収700万円以上の高所得世帯が33.4%を占め、全国平均の約1.6倍という購買力の高さも特徴です。大型スーパーが存在しない「購買流出型」の商圏であるがゆえに、「地元で買いたい」「地元の店で毎日のパンを買いたい」という潜在需要が高く、適切な品質・価格帯の個人店であれば固定客を獲得しやすい土壌があります。Toasty Shopが手がける「毎日の食卓に並ぶ、体にやさしい食パン」という商品設計は、まさにこの高所得・定住志向の強いファミリー層のニーズと高い親和性を持っていると考えられます。大倉山エルム通り商店街・大倉山レモンロード商店街といった駅の東西に広がる個人店中心の商店街文化も、こうした地域密着型の個店が育ちやすい土壌を後押ししています。

大倉山駅1km圏の指標 公開値 Toasty Shopへの読み替え
昼夜比 0.60(純粋居住型ベッドタウン) 住民の多くが日中は外に出るため、朝の通勤前や休日の来店を意識した営業時間設計が有効。
持ち家比率 54.9〜55.1%(一戸建て24.0%) 定住志向の強い住民が多く、「毎日通える近所のパン屋」というポジションを長期的に確立しやすい。
高所得世帯比率 33.4%(年収700万円以上) 国産小麦・無添加といった原材料コストの高い商品でも、適正価格での購買が期待できる。
来街倍率 約0.74倍(購買流出型商圏) 大型店との競合が少なく、狭い商圏人口でも独自の個店が成立しやすい環境。
飲食店数 113店舗/年間小売約405.6億円 地域住民の日常消費を支える生活密着型商圏として、安定した固定客需要が見込める。

※駅別数値は国勢調査、経済センサス等を基礎として店舗立地研究所が整理した半径1km圏の公開値です。統計項目により基準年が異なり、店舗の実際の来店客数や売上を示すものではありません。

さらに広がりそうな3つの顧客層

ここからは、店舗の現在の顧客構成や実施状況を確認したものではなく、公開情報と商圏特性から考えられる今後の可能性です。すでに実施されている取組が含まれる可能性があります。

1.高所得ファミリー層への定期購入・予約の仕組み化

高所得世帯比率33.4%という商圏特性を踏まえると、人気の食パンが早い時間に売り切れてしまう場合、電話予約やSNSでの取り置き告知など、確実に購入できる仕組みを整えることで、忙しい子育て世帯の「買えなかった」という取りこぼしを減らせる可能性があります。

2.発酵の物語を伝える情報発信

米麹からの自家培養という手間のかかる工程は、他店との明確な差別化ポイントですが、外からは見えにくい価値でもあります。発酵の様子や試行錯誤のエピソードを店頭や情報発信で紹介することで、価格の裏にある手間の価値を伝え、リピート動機を強化できそうです。

3.大倉山エルム通り・レモンロード商店街との連携

大倉山にはギリシャ風の街並みで知られる商店街が駅の東西に広がっており、地域ぐるみのイベントも活発な地域です。商店街の周年イベントや合同企画への参加を通じて、既存の固定客層以外への露出を増やす余地があるかもしれません。

もっと認知を広げるなら考えられること
「なぜ米麹なのか」を来店動機として伝える

米麹を元種に選んだ理由(酸味を抑えやすいこと、旨味成分を生み出す酵素を多く含むこと)は、店主が明確な意図を持って選択した技術的なストーリーです。この背景を店頭のPOPや商品パッケージに短く添えるだけでも、「ただのおいしいパン屋」から「発酵にこだわる専門店」という印象への転換につながり、価格に見合う価値を感じてもらいやすくなる可能性があります。

4年間の開業準備プロセスを店の個性として再利用する

2010年の開業決意から2014年の開業まで4年をかけたプロセスは、妥協のない立地選びとものづくりへの姿勢を物語る資産です。開業秘話や試行錯誤のエピソードを折に触れて発信することで、単なる「近所のパン屋」以上の、店主の哲学に共感するファンを育てる入口になり得ます。

店舗経営の視点:長期継続フェーズで検討余地のあるもの

原材料費、エネルギーコスト、賃借コストが上昇するなか、開業から12年以上が経過した小規模店舗にとって、設備更新やコスト構造の見直しは重要なテーマです。以下はToasty Shopが現在必要としている、または各制度を利用できると判断したものではありません。同様に長く続く個人店の店主にとっての一般的な選択肢です。

ガスオーブン・厨房機器のエネルギーコスト見直し

ガスオーブンや発酵機、冷蔵・冷凍設備を常時稼働させる製造業態は、電気・ガスの使用量が業種平均に対して相対的に大きくなりやすい業態です。開業から12年以上が経過し、機器の稼働効率や契約プランを見直すタイミングとして、法人向け電力・ガスプランの比較検討には実利がある可能性があります。

厨房機器更新・省エネ設備への補助金活用

開業時に横浜市の助成金制度を実際に活用した実績があり、公的支援制度への感度は高いと考えられます。開業から10年以上が経過し、厨房機器の更新期を迎えている可能性を踏まえると、省エネ設備への入れ替えに関する補助金・助成金の情報は歓迎される可能性があります。

事業承継・保険の観点からの備え

夫婦二人での家族経営という体制は、どちらかが働けなくなった際の事業継続リスクと直結します。長年続く個人店にとって、事業継続のための保険や共済制度の見直しは、規模拡大とは異なる形での「経営の安定化」につながるテーマです。

補助金は「使えるものを探す」より、必要な投資から逆算する

補助金は、採択や交付決定が約束されるものではなく、申請前に契約・発注・支払いをすると対象外になる制度もあります。まず事業の課題と必要な投資を整理し、その後に対象制度、公募期間、補助対象経費を確認する順番が重要です。2026年8月時点では、小規模事業者の販路開拓等を支援する小規模事業者持続化補助金、省エネ設備の導入を支援する省エネルギー投資促進に向けた支援補助金などがあります。募集期間、予算残額、対象経費などは変わるため、必ず申請時点の公式情報を確認する必要があります。

【街の店舗分析まとめ】規模を追わず、発酵にすべてを賭けた12年

Toasty Shopの面白さは、単なる「おいしい食パン屋」という表層的な魅力にとどまりません。7.0坪、夫婦二人という決して大きくない体制で、市販の天然酵母を使わず米麹から自家培養するという手間のかかる方法を選び抜いたことが、「日本人が食べてホッとする、ご飯のような食パン」という独自の価値を生み出しました。開業までに4年をかけて理想の立地と条件を待ち続けた姿勢、そして横浜市の助成金を実際に活用しながら着実に資金計画を固めたプロセスは、規模拡大を目指さない個人店が長く続くための一つの型を示しています。持ち家比率が高く高所得ファミリー層が厚い大倉山商圏という土壌と、体に優しい毎日の食パンという商品コンセプトの相性の良さも、この店が12年以上にわたって地域に根付いてきた重要な要素になっていると考えられます。

地域のお店を、商圏データと一緒に紹介します

店舗立地研究所では、飲食店、物販店、美容サロン、整体・リラクゼーション、パーソナルジムなど、地域で営業する店舗の魅力を、立地・商圏・顧客層の視点から紹介しています。

掲載・取材をご希望の店舗様は、公式LINEまたはお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。店舗の出店・移転・商圏分析、事業計画、資金調達、補助金活用、集客、省力化のご相談についても対応しております。

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出典・確認資料

執筆・分析:太田 満/編集:店舗立地研究所編集部

本記事は店舗の優劣や経営状態を格付けするものではありません。公開情報と商圏データを用いて、地域店舗の魅力と立地・店舗経営上の可能性を独自に考察したものです。売上、利益、実際の顧客構成等を推定・保証するものではありません。

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この記事を書いた人

太田 満のアバター 太田 満 店舗立地研究所及び合同会社ビジネスデザインラボラトリーズ代表

合同会社ビジネスデザインラボラトリーズ 代表社員
店舗立地研究所 代表

株式会社みずほ銀行にて16年間、数百社の中小企業オーナー・個人事業主の渉外・融資審査・経営相談業務に従事。
2021年独立後は創業支援・店舗出店支援を多数手がける現役コンサルティング会社代表。

専門は店舗事業の商圏(エリア)分析。2,000以上のエリア分析を実施し、「負けない店舗経営」「失敗しないフランチャイズ選び」を支援中。

資格:中小企業診断士・宅地建物取引士・フランチャイズオーガナイザーのほか、賃貸不動産経営管理士・管理業務主任者・不動産証券化マスター・M&Aシニアエキスパートなどの資格も保有。

第19回(2026年4月30日締切)小規模事業者持続化補助金の申請者に対して、KLA(KDDI Location Analyzer)を用いた自社商圏分析サポートを実施。

その他、税理士事務所様などと共催の補助金セミナーなども行っており、店舗立地や補助金などのセミナー依頼も、公式LINEからお気軽にお問い合わせくださいませ。

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